日曜日。
今日は石川練に参加した。
メニューはeazyペースでのロング走。
福岡マラソンも近づいてきた。
暦は9月。
早朝なら気温も20度後半まで下がる。
まだまだ暑い。
それでも、もう真夏とは少し違う。
私もそろそろロングへ切り替えていく。
学生時代の私は、長距離のペース走が得意だった。
一定のペースを維持する。
身体に覚えさせたペースで集団を管理する。
フルマラソンは好きだった。
体力や筋肉だけではない。
呼吸。
集中力。
心の余裕。
持っているものを少しずつ使いながら、最後まで残していく。
そういう競技だ。
逆に苦手だったのが、200mや400mだった。
数本走ると、どうしてもついていけない人間がいた。
同じように練習している。
それでも、最初から違う。
そういう現実を何度も見せられた。
だから夏になると、ロングをやった。
流しやスピード練習は、あまり好きではなかった。
三十代前半になると、ウルトラマラソンまで始めた。
100キロにも何度か出場した。
景色を見るのは楽しかった。
長い距離を走るのも嫌いではなかった。
ただ、だんだんつまらなくなった。
一人になる。
誰もいない。
駆け引きもない。
残るのは自分だけだった。
高校生の頃。
どうしても勝てない先輩がいた。
何をやっても、最後にはその人の背中が前にあった。
私は先輩のフォームを真似した。
腕振り。
接地。
姿勢。
できるだけ同じように走った。
すると、タイムが伸びた。
ちなみに後から知ったのだが、その先輩は今の嫁の初恋の相手だったらしい。
そこまで似なくてもよかったのだが。
三十代後半から、夏の過ごし方が変わった。
200m。
400m。
速い連中の中に混じる。
ついていけない。
悔しい。
またやる。
そんなことを何年か繰り返した。
昔なら、もっと不機嫌だったと思う。
今日は5人で走った。
イタミさん。
オニヅカさん。
そしてツバメさんという若い子。
ツバメくんは、まだ長い距離には慣れていないらしい。
今日はチャレンジ目標でついてくるという。
前を走るオニヅカさんの列から、少しだけ身体がはみ出していた。
「兄弟。完全に一列で走ろう」
私は言った。
「ペース走は前の人間のフォームを盗む練習でもある。
前のオニヅカさんのフォームを完全に盗め」
そうすれば君からも角が生えてくるぞ。
前で聞いていたオニヅカさんが、ニョキニョキっと指で角を作った。
ツバメくんは呼吸を荒げながら笑っていた。
「これがeazyとか、おかしいですよ!」
そのうち私の中の松岡修造が出てきた。
「私が君に特別に特殊能力を分けてあげます」
「ホワイトアウトという技です」
もうすぐ10キロ地点。
私が合図をしたら目を閉じてほしい。
私が合図をした瞬間。
君の10キロ分の記憶が消える。
つまり、今から今日の練習が始まる。
「さあ、目を閉じて。
3。
2。
1。
さあ今日も練習頑張ろう!」
ツバメくんは、もうだいぶボロボロだった。
18キロあたりから、私とイタミさんの二人になった。
二人でGarminの心拍数を教え合う。
「私は165ですよ」
「いや、私は170に近いです」
ペースも同じ。
心拍数まで近い。
私は後ろから、イタミさんの動きを見ていた。
腕振り。
歩幅。
呼吸。
息遣い。
足捌き。
だんだん同じになっていく。
俺はお前になりたい。
完全に同じになってしまいたい。
イタミさんは、ある程度速くなっても偉ぶらない。
言葉遣いも丁寧だ。
陸上歴が長いわけではない。
それでも、淡々と長い距離を走る。
ガマちゃんが言った。
「イタミさんは武士みたいなランナーだ」
何も語らず。
何も誇らず。
背中だけ見せて走っていく。
私はその後ろで、腕を振った。
足を運んだ。
呼吸を合わせた。
しばらくして。
「だいぶ足が当たりますね。
私、きっと足が流れてるんですね」
怒られてしまった。
「いや、私がイタミさんのフォームを真似しすぎたせいです。
ごめんなさい」
完全に同じになるには、少し近すぎた。
結局、26キロまで予定ペースで走れた。
サカイくんは一人でスピード練習をしていた。
私は、長い距離へ戻っていく。
初秋の朝は、まだ蒸し暑かった。
それでも少しだけ。
涼しかった。

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