上司を呼べ

毎朝のルーチンとして四歳の息子と二歳の娘を保育園へ送っている。

娘を片手に抱え、背中には布団袋。子供二人分の荷物を持ちながら保育園まで歩く。

すると息子が言った。

「妹だけずるい。私も抱っこせよ」

流石に無理である。

こちらはすでに輸送能力の限界に達している。

そう説明すると、息子は少し考えてから代案を出した。

「わかった。では折衷案を出そう。肩車でいかがか」

交渉成立である。

私は頭上に四歳児、左手に二歳児、背中に布団袋という完全装備で保育園へ向かった。

しかし本当の戦いはここからだった。

保育園に到着すると息子が動かない。

入園拒否である。

説得を試みる私に対して、彼は冷静に言った。

「あなたではらちがあかない。もっと家庭で役職の高い母を用意しろ」

なるほど。

担当者権限を超える案件らしい。

私は妻が不在であることを説明した。

すると追撃が始まった。

「では今すぐ上司に電話しなさい」

「私がこんなに困っている状況なのに、正しく御社内ではエスカレーションされているのか?」

「どの階層のどの役職のなんという人にまで伝わっているか報告しなさい」

「解決する見通しが立つ日程の報告ができる日程に対してあなたの目標回答見込みを今すぐ回答しなさい」

「エビデンスを残します」

途中から保育園で言われているのか、会社で言われているのかわからなくなった。

考えてみれば息子も顧客も似ている。

抱っこしてほしい。

保育園に行きたくない。

納期が遅れて困っている。

要求の内容は違うが、本質は同じだ。

自分が困っている。

だから状況を説明してほしい。

だから安心させてほしい。

だから一番偉い人を呼びたくなる。

営業をやっていると、顧客は製品や納期に怒っていると思いがちだ。

だが案外そうではない。

本当に怒っているのは、何が起きているかわからないことに対してなのかもしれない。

四歳児も同じである。

そう考えると、今日の朝の私は営業担当としては0点だった。

顧客への説明が不足していた。

夕方、息子と一緒にぷにるんずを見た。

昼間あれだけ強硬な要求を突き付けてきた人物は、画面の前で楽しそうに笑っていた。

どうやら案件は無事クローズしたらしい。

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