アクセルと足音の狭間で

日曜日。

今日も大濠公園に向かった。

本来は20キロのロングペース走の予定だった。

そろそろ福岡国際に向けて、長い距離を走る身体に戻していきたい。

ところが前日サカイくんが、

「スピードやりませんか?」

と、素直な眼差しで誘ってきた。

私は、

「やりましょう」

と調子よく答えてしまった。

予定とは、だいたいこうして変わる。

メニューは私が考えた。

600m×6。

400m×5。

200m×4。

距離ごとにフォームを切り替えていく、タフなスピードトレーニングである。

5000mの動きから1500 800mの動きへと

3段階のギアを変えていくイメージだ。

メンバーはガマちゃんや高校生も参加してくれた。

それなりの設定タイムで初めたが

600mの3本目くらいでサカイくんが攻めた。

すると400mになっても、結局同じような動きになっていく。

ギアを切り替える練習のはずが、ずっとアクセルを踏みっぱなしだ。

可哀想なのは高校生だ。

昨日に引き続き、また大人たちの大変な練習に巻き込まれてしまった。

600mの最後でヘトヘトになっている。

そして400mが終わった頃。

私の中の松岡修造が動き出した。

「600mも400mも終わった」

「200mは頑張って走った自分へのご褒美だ」

「走って頑張った自分へのご褒美に、また走ろう」

さあ。

デザートを味わおうか。

そう言って走り出すと、

「200mは辞めておきます」

と言っていた高校生が、しんどそうについてきていた。

私の二重人格のせいですっかり付き合わせてしまった。

最後はハムストリングがパンパンになった。

ダウンジョグをしていると、予定を変えなかった人たちがいた。

イタミさんやナッツくんだ。

彼等は軽快にペース走を続けていた。

20キロでは物足りなかったらしく、そのまま30キロに向かう勢いだ。

前の日、マタロウが言っていた。

物静かで、淡々と練習をこなすイタミさん。

遠くから見ても、真っ黒なシルエットだけで誰だか分かる。

全身真っ黒なウェア。

黒いサングラス。

そこに白髪のショートヘアが映える。

「遠くで淡々と走っていたけど、イタミさんだと分かるんですよね。」

イタミさんは8年前までバイク乗りだった。

子供ができた。

予定を変えた。

バイクを売った。

今は、俺たちの仲間だ。

けれど遠くから見えるその真っ黒なシルエットは、今も革ジャンのブラックライダー。

静かに。

淡々と。

長い距離を前へ進んでいく。

今日、私は予定を変えた。

ロングペース走をやめて、短い距離を速く走った。

夏はこれで良い。

だが、そろそろ。

ロング適性ランナーである私が、帰るべき場所に帰る時期になった。

あのシルエットに自分を重ねながら。

そう言うと、サカイくんが悔しそうに言った。

「まだスピード練習を一緒にやりましょうよ」

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