汗河鉄道の朝

「皆さんはこのぼんやりと白く流れているものの正体をご承知ですか?」

四月の早朝。大濠公園で20キロ走をしていた時のことだ。

ガンバレルナラは私にそう尋ねた。

私は赤くなってしまい答えられなかった。

「ジョグンニさんならきっと分かるでしょう。この粉の正体は顕微鏡で見ると無数の結晶になっている。さらに分析するとナトリウムやアンモニアになるのです」

ジョグンニさんは黙って走っている。

私も黙って走っている。

額から流れた汗は乾き、帽子やシャツには白い跡が残っていた。

なるほど。

確かにそこには白い川が流れていた。

ただし天の川ではない。

中年ランナーたちが早朝からせっせと生産した汗の川である。

本当のさいわいとは一体なんだろう。

休日の朝六時。

世間の大半はまだ寝ている。

その時間に私たちは公園へ集まり、二時間近く走り続けている。

塩が欲しいならスーパーへ行けばいい。

わざわざ苦しい思いをして自家製の塩を作る必要はない。

それでも毎週のように集まってくる。

速くなりたい人がいる。

痩せたい人がいる。

健康診断の数値を気にしている人がいる。

皆、自分のために走っている。

実に結構である。

本当のさいわいとは一体何だろう。

出世することだろうか。

資産を億貯めることだろうか。

私は知らない。

ジョグンニさんは最近買ったシューズの話をしていた。

ガンバレルナラは次のレースの話をしていた。

私は途中からあまり聞いていなかった。

額から流れた汗が目に入って痛かったからである。

それでも気が付くと毎週同じような顔ぶれが集まってくる。

誰かのためではない。

皆、自分のために走っている。

それなのに気が付くと仲良くなっている。

そんなことを考えているうちに練習は終盤になった。

最後のスパートでジョグンニさんが私を追い抜いていった。

スパッツに付いた塩が妙な形になっている。

パンツだった。

私はその形を見たことがあった。

家で毎日見ている。

オムツを履いた娘にそっくりだった。

本当のさいわいとは一体何だろう。

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