子供の認識の話

営業職をやっていると、「難しい言葉を翻訳するゲーム」を延々と続けることになる。

例えば半導体業界には、
ロードポート、EFEM、マッピング、ベベル洗浄機、コーターデベロッパー
など、知らない人が聞けば暗号にしか思えない言葉が大量に存在する。

偉い経営者相手ならむしろ楽だ。

横文字を並べておけば、なんとなく仕事を分かっている雰囲気が出る。発表資料にも謎のカタカナが並び、「おお、最先端っぽい」という空気が完成する。

だが社内で技術説明をする場面になると急に苦しくなる。
自分自身も完全には理解していないものを、無理やり説明しなければならないからだ。

ただ私は、この「翻訳」という作業が昔から結構好きだった。
例えばEFEEMを説明するなら、三十年前くらいにあったCDコンポの二十枚チェンジャーを思い出してもらう。

好きなCDを自動で持ってきて再生してくれる、あの機械だ。
半導体工場では、あれのシリコンウエハ版をやっているようなものである。

コーターデベロッパーなら、ピザ生地に均一にトマトソースを塗る機械だと思えばいい。均一に塗るほど綺麗に仕上がる。

実際のところ、やっていることの本質はそんなに変わらない。
私はたぶん、この翻訳の秘術だけで二十年ほど生き残ってきたのだと思う。

そして最近、この能力が別の場所で試されるようになった。
四歳の息子である。

子供というのは圧倒的に語彙が少ない。

しかし彼らなりに世界を理解し、保育園の先生や友達に「親の仕事」を説明しようとする。
以前、「おとうたんのお仕事は何をしてるの?」
と聞かれた息子は、

「なんか走ってる」
と答えていたらしい。

確かに私は趣味でよく走っているが、それでは職業説明としてあまりにも弱い。

これはいけないと思い、

「お父さんは工場のロボットを作る仕事をしてるんだよ」
と教えてみた。

するとこれが意外とうまくいった。
先生たちも「なるほど、工場関係のお仕事なのね」という顔になったらしい。

営業翻訳、成功である。

続いて妻の仕事も説明してみることにした。
妻は税関関係の公務員である。

しかし「税関」という概念を四歳児に説明するのは難しい。
なので私は、
「お母さんは、外国からバナナを持ってくる時に、日本に入れていいか確認する仕事なんだよ」
と教えておいた。

数日後、私は息子に確認してみた。
「お母さんのお仕事、覚えてる?」

息子は少し考えてから、自信満々に答えた。
「えっとねー。えっとねー……なんかバナナを集めてる人」
思わず爆笑してしまった。

どうやら息子の世界には「税関」は存在せず、「バナナ」だけが残ったらしい。

人に伝えるというのは難しい。
そして多分、大人もそんなに変わらない。
会議で横文字ばかりが記憶に残り、誰も中身を説明できないことがある。

「DX」とか「AI」とか「ソリューション」とか、印象だけが頭に残る。

四歳児市場への営業は、まだまだ難航している。

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