螺旋階段

今日は練習会のメンバーと3000mに出場してきた。

例のサカイくんとの決戦の舞台である。

マタロウ、俺を大濠公園に引きずり込んだナッツくん

https://maekeeen40.com/2026/07/12/1786/ 

ベインくん

https://maekeeen40.com/2026/07/30/%e5%86%99%e7%9c%9f%e3%81%ab%e3%81%af%e3%81%aa%e3%82%89%e3%81%aa%e3%81%84%e3%82%82%e3%81%ae/ 

「馬場信春」も一緒だった。

ジョグで競技場を回っていると、早速レース展開の話になった。

俺は「設定タイムで一周交代しよう」とチーム案を出した。

ところがサカイくんだけは違った。

「私はベスト更新タイムで一人でもグイグイ押しますよ」

じゃあ、みんなでついていこうか。

結局そんな話になってしまった。

競技場に着くなり、マタロウは愚痴を言っていた。

先日、熊本旅行で財布一式をなくしたらしい。身分証もない。

「スタート地点ですでに自分を失ってきた!」

それはそれでドラマだが、オッサンの汚い3000mなんか走ってる場合なのか。

身分探しのほうが大切じゃないのか。

しかし日曜日が幸いしたのか災いしたのか、公共機関が動いておらず、まだ何も始められないらしい。

マタロウは昔からこういうことをする。

「全然練習してない」

みたいな顔をして、こっちを油断させる。

そして本番ではしっかり勝負してくる。

何度これにやられたことか。

本当に負けず嫌いなヤツだ。

二十年変わらない。

それがもう、愛おしい。

レース直前、ナッツくんに目標タイムを聞いた。

俺が想定していたより20秒も速い。

「いい夢見てるな」

「夢の中ですかね」

そんな会話をした。

今考えれば、あれが前振りだった。

俺はスタート前に宣言していた。

「全員の後ろに潜むよ。絶対に馬鹿なことはしないぜ」

3000mなので7周半である。

スタートすると、予定通りサカイくんが一人で進んだ。

想定内のペースで一周。

二周目、少し鋭く入った。

何人かが振り落とされる。

三周目。

サカイくんの腕振りが荒くなってきた。

首の上下運動も大きくなっている。

ヘッドバンキングみたいだ。

マキシマム ザ ホルモンのライブを思い出した。

俺は5番手。

クレバーに走っていた。

そのまま行けばいい。

今日は絶対に馬鹿なことをしない。

そう思っていた。

ところが4周目。

なぜか俺は、苦しそうなサカイくんをめがけて、集団の先頭に躍り出ていた。

何をしたかったのか、自分でも分からない。

ただ、自分の中にまだ残っていたトラックアスリートの青春が、勝手に身体を動かした。

たぶん。

アイツを少しでも助けたかったんだと思う。

そして、そんな馬鹿なことをした俺を、マタロウがサックリかわして前に出た。

いつも通りだ。

俺は一周も引けなかった。

5周目に入るころには、完全に潰れていた。

そこからは、3000mってこんなにキツかったのかと、久しぶりに思い知らされた。

タイムはもはや高校生時代に戻った。

俺の二十五年を返してほしい。

6周目。

ナッツくんが俺を軽々と追い抜いていった。

ただ、彼も白夢を見ていたらしい。

あまり前には進まず、結局かなり近いところでゴールした。

レースが終わった。

でも、今日の本番はここからだった。

みんなでダウンジョグをした。

サカイくんはしっかり目標タイムで走り切っていて、爽やかだった。

俺を倒してスピードを遺憾なく発揮できたマタロウは、いつもより饒舌だった。

俺とナッツくんは、そんな二人の話を聞いていた。

サカイくんは何度も足を攣った。

悔しそうに戻ってきて、また歩いて、また戻ってくる。

マタロウはトラックレースの秘訣みたいなことを一生懸命話していた。

決定的な場面で、むしろ後ろに下がる。

そこで余力を残しておくことで、全体としてのタイムを上げられる。

いわゆる、今流行りの「出し切らない理論」なのだと思う。

昔から何度も聞いている。

軽トラの俺には、RX-8の彼が何を言っているのか、いまひとつ分からない。

ただ、スポーツカータイプのナッツくんやサカイくんには、バッチリ刺さっていた。

マタロウはさらに続けた。

「トラックはやっぱり楽しいよ」

俺たちの練習会には、トラックには出ないけどフルマラソンには来る連中も多い。

「彼ら、このレースやらないで、この時期何やってるんだろうね」

俺は笑って答えた。

「夏場はトレランやったり、ウルトラマラソンやったり。それはそれで忙しいのさ」

するとマタロウが少し怒った。

「先輩もそうじゃないですか」

大学時代、陸上部と掛け持ちして自転車部に入った。

100km漕いだあとに30km走ったりしていた。

「昔から理解できないんですよ」

俺は笑った。

そして、答えられなかった。

たぶん俺は、今まで君との勝負が怖かったんだと思う。

真正面から螺旋階段を見るのが怖かった。

大牟田高校出身の先輩たち。

自分よりずっと速く走れる鋭い人たち。

その才能への畏怖が、どこかにずっとあった。

これは、このブログでしか語りたくない。

でも。

今は違う。

君たち。

そろそろ夏が終わるぜ。

俺たちの博多の森の蝉の声も、クマゼミからヒグラシに変わってきた。

螺旋階段を15分で競争するゲームは、そろそろ終わりにしよう。

今度は福岡の道を走ろう。

2時間半。

俺と一緒に遊んでもらうぜ。

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