ファールアピール

子育ても3人目ともなると、こちらも落ち着いてくる。

ちょっとやそっと転んだくらいでは動じない。

食事だって散漫になる。

「え、それ食べられる?」

というくらいの大きさのものを、平気で出してしまう。

親のほうが雑になっている。

ところが、子どもたちはそうでもない。

むしろ年々、こちらの扱いが上手くなっている。

我が家では最近、ファールアピール合戦が繰り広げられている。

誰が一番ひどい怪我をしたのか。

誰が一番かわいそうなのか。

自分の怪我がいかに痛く、いかに補助を必要とし、いかに救急車を呼ぶギリギリだったのか。

兄弟それぞれがプレゼンしてくる。

三人とも、やり方が違う。

長女はファールアピールが一番下手だ。

普段は三人をまとめるチームリーダーなのに、妻が相手をしてくれると、急に子どもっぽくなる。

甘える。

ふてくされる。

そして、寂しかったり理不尽なことがあると、突然二時間、三時間と泣き続ける。

普段は原子力発電所のように安定しているのだが、一度暴れ出すと出力が大きい。

長男は火力発電所だ。

姉から暴力を受けたり、理不尽な目に遭ったりすると、

「痛い!」

と騒ぎ出す。

親に裁判をしてほしいのである。

ただし、私が裁判長をすると、ほとんど開廷しない。

話を聞いてみると、

姉が6で弟が4。

いや、7対3くらいで弟も悪い。

そんなものを毎回裁いていたら家庭が裁判所になってしまうので、妻と相談して、基本的に仲裁しないことにした。

ところが妻がいると話は変わる。

長男は妻のところへ行く。

私より妻のほうが判定が甘いことを知っているからだ。

私しかいない日は、裁判はあまり始まらない。

どうやら我が家の行政機関には、開庁時間があるらしい。

そして最近、長男は別の方法も覚えた。

「お父さんのいとこのおうちに行きたい」

と言うようになった。

私は久しぶりに兄弟に会えるので、嬉しくなって連れていく。

ところが着いてみると、長男は従兄弟とはほとんど遊ばない。

無言でプラレールをやっている。

どうやら私は、久しぶりに兄弟に会いたいらしい。

そのことまで見抜かれていたようだ。

私は兄弟に会いに行った。

長男はプラレールをしに行った。

私の兄弟愛を餌にして。

そして三人目。

二歳の娘は、水力発電所である。

兄たちを見ながら、静かに流れを覚えている。

この間、足の親指の爪を襖にぶつけて割っていた。

血まみれで、爪も割れている。

相当痛いはずなのに、本人はそのまま遊ぼうとしていた。

本当に痛いときには、もう忘れている。

ところが今日、ショッピングセンターで眠そうだったので抱っこ紐に入れて背負っていると、

「痛い痛いーー! 痛いよう!」

と背中から絶叫している。

たぶん、まだ痛覚から送られてくる情報をそんなに精密には処理できない。

兄が「痛い」と言う。

「痛い」と言えば大人が動く。

その仕組みだけは、もう知っているのかもしれない。

子どもは親から言葉を覚える。

三人目になると、兄弟からその使い方まで覚える。

考えてみれば、長女も妻がいないときには三人をまとめている。

妻が現れると、突然甘え始める。

長男は、妻がいると裁判を始める。

次女は、妻がいてもいなくても私にベッタリだ。

三人とも、親を見ている。

そして、親が何を喜び、何に弱く、誰に訴えれば話が通るのかを、それぞれの方法で覚えている。

長女は原子力。

長男は火力。

次女は水力。

私は三つの発電所を運営しているつもりだった。

どうやら違う。

私はただの、電源である。

そして今日も、三人はそれぞれの方法で私を動かしている。

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