都合の良い男達

今日も朝4時半に起きて、大濠公園の練習会へ向かった。

私にはサカイくんというライバルがいる。

32歳。1500mから10000mまで、スピード勝負ではほとんど勝てない。

最近はガマちゃんが仕事で忙しく、練習相手としては少し物足りなくなってしまった。

だから今は、サカイくんを仮想敵にしている。

今年は夏に5000mで15分前半まで仕上げ、秋からはフルマラソンへ切り替える。毎年のように福岡国際マラソンを目指すなら、この季節はスピードを磨いておきたい。

その相手として、彼ほど都合のいい男はいない。

今日は6人で10000mのペース走。

設定は3分20。

入りは3分18。気持ちよく入る。

後ろの様子を見る余裕はない。

それでも足音だけは分かる。

六人ともついてきている。

サカイくんだけは少し苦しそうに見えた。

ところが、この男は苦しそうな顔をしている時ほど危ない。

見た目は穏やかで、笑うと好青年そのものだ。

だが、走り始めると性格が変わる。

設定通りに先頭を引く私の横へ並び、前へ出る。

追いつく。

また前へ出る。

何度追いついても譲らない。

走り方だけは、とんでもないドSである。

全力なので会話はない。

給水を取りますよ、と言っていたことすら忘れていた。

背中と歩幅と心拍を完璧に合わせることで語り合う。

俺たちには、最初から言葉などいらなかった。

大濠公園は一周2km。

ラスト一周。

案の定、サカイくんが仕掛けた。

3分10を切るペース。

追いかける。

少しずつ離される。

今日も負けた。
32分半くらいなので満足感はある

それでもダウンジョグでは、二人ともよくしゃべる。

「8月、5000mで勝負しましょう。」

彼は笑いながら言った。

「いいペースメーカーがいたら、ベストが出そうですね。」

「いい人がいればね〜。」

まるでマッチングアプリでもやっているみたいな会話だった。

その横では、リヨンくんが今日も一人で走り、彼女なのかファンなのか分からない女性にインスタ用の写真を撮ってもらっていた。

私はボロボロのウェアに、擦り減った中古のアディオス。

サカイくんはハーフパンツのケツポケットにスマホを入れ、ニコニコしている。

たぶん、どちらもランナーとしては正しい。

幽遊白書でもドラゴンボールでもそうだった。

本当に強い相手とは、戦ったあとに仲間になる。

いや、仲間だからこそ全力で戦えるのかもしれない。

8月。今度は5000mで勝負だ。

今日も大濠公園は、暑苦しい都合の良い男たちでいっぱいだった。

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