もっと走りたい

木曜日の朝、5時。

まだ夜の続きみたいな多々良川沿いに、5人が集まった。

前日の夜9時、ガマちゃんからLINEが来た。

「朝5時から走りたい」

彼は最近、仕事が忙しい。

月200キロにも届かない。

このままでは福岡国際のAグループを維持できない。

「君と一緒に走れなくなる」

ニコニコしながら前に言ったのを思い出した。

私は一度断った。

このあと往復通勤ランをするのでちょっとしんどい。

でも、少し考えてから。

「やっぱり一緒に練習したいです」と送った。

俺はガマちゃんと走りたかった。

センちゃん、ボクサーのナイトウさん、ラガーマンのカレンさんも来た。

5時。

400メートル10本。

家を出たときは涼しかった。

ところが河川敷を何本も往復するうちに、暑さが身体にまとわりついた。

海からの潮風まで肌に張り付いて離れない。

それでもガマちゃんは、いつも通り私に食らいついてくる。

フルマラソンでは最近いつもそう。

この間の別大も32キロで私が前に出ると、他の人には抜かれても気にしないくせに、私にだけは必ず食らいついてくる。

同じチームの仲間、ライバル。

俺だけは許してくれない。

いつも最高の勝負ができる。

そしてセンちゃんもしっかり速くなった。

私とガマちゃんにほとんど最後までついてきた。

防府マラソンの抽選には外れたらしい。

防府は私も認めている高速コースだ。

私は彼に勧めていて

「君ならここで、このタイムが出る」と言っていた。

センちゃんは静かに言った。

「防府も走りたかった」

去年、私は防府に当選していた。

そのときは他の大会の結果が良かったことと、骨折したこともあって、入金せずに権利を放棄した。

その報いが来たのかもしれない。

そんなこたぁないのに。

彼はそう言った。

5本目。

ナイトウさんが不意に立ち止まった。

足を引きずっている。

ここまでうまく練習できていた。

このままいけば、福岡マラソンもうまく走れそうだった。

ジョグに切り替えたナイトウさんとダウンをする。

私はアキレス腱炎について、原因や治療法や、自分の経験談なんかを無難に説明した。

でも、彼の顔色は晴れない。

頭突きをされた亀みたいな顔をしている。

彼は納得のいかない表情でこういった。

「もっと走りたい」

7時。

練習を終えて、いつも通り子どもたちを保育園へ連れていく。

2歳の娘がベビーカーに乗ってくれない。

もう、なんなんだ。仕事に遅刻する。

少し腹を立てながら歩いていると、どうやら娘は自分の足で歩きたいらしい。

いや。

歩くだけではない。

走りたいらしい。

4歳の兄も一緒だった。

娘は兄の顔を見る。

一緒に走りたい。

兄は何も言わず、手を差し出した。

娘がその手を握る。

二人は手を繋いで走り出した。

そして二人そろって、自分たちの荷物を私に渡してきた。

我が家では、マンションの敷地にある60メートルほどの直線を「グランディアレース」と呼んでいる。

娘にとって、今日は人生初のレースだ。

まだヨチヨチしている。

それでも、一歩ずつ前へ進んでいく。

長男が不意に私へ聞いた。

「どうしてバラちゃんは急に走りたくなったの?」

私は少し考えた。

「いつもクーちゃんが走ってるのを見てたからだよ」

娘は、この一年ほどベビーカーの中から兄や姉のレースを眺めていた。

走っている二人を見ていた。

そして今日、自分が始めて走った。

保育園に着いた。

長男を預けると、50歳手前の仲の良い保育士さんが話しかけてきた。

去年は福岡マラソンに落選した。

今年は当選した。

でも、保育の仕事で腰が痛い。

仕事のあとに走りたい。

けれど走れない。

彼女は聞いた。

「どうやったら、もっと走れますか?」

私はまた、腰痛の原因や、歩くことでもジョグと似た筋肉を使えることなんかを、ダラダラと説明した。

でも、最後まで彼女の顔色は晴れなかった。

そのまま私は、灼熱の中を通勤ランした。

汗だくになって事務所へ着く。

いつも通りデスクに向かい、PCを開く。

私は今年は故障もしていない。

練習も無難にこなせている。

むしろ、今は調子がいい。

帰り道。

いつも以上に、しっかりとストレッチをした。

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