アスリート・ボラティリティ

土曜日。
今日もカペルくんが金曜深酒の私を車で送ってくれたので、大濠公園の石川練に参加した。

練習メニューは10キロペース走。

沖縄で彷徨っている台風のせいか、風が涼しい。

朝5時半で28度くらいだった。

今日はマタロウ、サカイくん、イタミさん、ガマちゃん、高校生なんかと一緒に走った。

初めの1周目は、暑いかどうかを判断する。

2周目。

涼しい。

いつもよりいけることが分かった。

すると3周目から、サカイくんが設定ペースを上げ始めた。

私はウェルカムだ。

ゾクゾクしていた。

4周目になると、故障からすっかり戻ったイタミさんまでガンガン押し始める。

このあたりから、設定ペースなど無意味になった。

それぞれ耐え忍んで、ダウンジョグを始める。

いつもおとなしくしゃべらない高校生が一番に口を開いた。

「今日は3周目から速くなりました」

高校生がそう言うと、全員で

「悪かったねー」

となる。

彼だけ、この親父だらけの中にあって文字通りホープである。

表面的には皆で謝る。

ペースは落とさない。

ダウンジョグをしながら、

「マラソンと陸上競技はジャンルが違う」

という話で盛り上がった。

マタロウ、ナッツくん、サカイくん。

彼らはトラックアスリートタイプで、5000メートルが主戦場だ。

スピードが持ち味で、競技者として生きている。

一方、

私、イタミさん、ガマちゃん。

こちらはスタミナタイプ。

フルマラソンを走るのが得意な、長期思考タイプである。

要は、

どれだけ長く練習を積めるか。

を考えている。

似ているようで、まったく違う。

前者には、生まれながらの才能が必要だ。

後者は、言ってしまえば、ただ練習を積み上げているだけである。

「マエちゃん先輩は昔からそうだった」

マタロウが言った。

「練習の前にチャリで久留米まで行ってきたり、朝練で30キロしたり。2000メートルを10本とか始めたり。

普通、200メートルを10本やりたいですよ。

ホント意味が分かんない」

そう。

彼らの才能には叶わないので、私は超長期戦を挑んでいるのだ。

局地戦では負ける。

しかし、フルマラソンという戦場なら話は別だ。

スピードでは勝てない。

だから経済力で圧倒する。

毎月コツコツ入金して、複利を味方につける。

局地戦で負けても、グロスでは君に勝てる。

そういう競技を選んでいるのだ。

と思ったが、次のフルが楽しみなので言わなかった。

もっとも、学生時代にはそんな戦い方をしている人間は、ただの変態だった。

大学時代の陸上部では、私は変態扱いだった。

30キロ走ったり。

自転車に乗ってみたり。

登山して痩せてみたり。

彼らトラックアスリートのほうが、正当な陸上競技者だった。

だが社会人になった。

すると、いまでは主流は私たちである。

到底スピードでは叶わない彼らのほうが、珍品みたいな扱いになった。

アスリートとしては何一つ変わっていないのに。

変わったのは、我々ではない。評価する側だった。

よく分からない社会的なマラソンブームが、

私たち変態マラソンタイプのインデックス株を押し上げたのだろう。

会社で、

「フルマラソン2時間半です」

と言うと、誰からも尊敬される。

しかし、

「800メートル2分切ります」

と言っても、ほぼ伝わらない。

本当は逆だ。

フルマラソン2時間半は、正直、物量で圧倒すればなんとかできる。

しかし800メートル2分切りは違う。

あれは、生まれつきの才能がほとんどだ。

ケツワレというハムストリングを断裂寸前まで追い込める気概とそれに耐えうる強靭なDNAが必要。

陸上競技者としての偏差値なら、どう考えてもそちらのほうが高い。

そんな事をカペルくんと話しながら家に帰り着くと

七歳の娘がクッキーを焼いていた。

何やら同い年のカッコいい男子が、雨の日に傘を貸してくれたらしい。

お返しにクッキーを渡したいのだという。

「彼のどこがカッコいいの?」

と聞くと、

足が速いらしい。

岡田斗司夫がYouTubeで、

男のモテ要素は、

小学生は足。

中学生は顔。

高校生は協調性。

社会人は金。

と言っていたのを思い出した。

そう考えると。。。。。

我々は小学生でストップ高だったに違いない。

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