若い自分との再会

最近、若いランナーと話すのが好きだ。
別に若者に興味があるわけではない。

話していると昔の自分が出てくるからである。

まだ自分というデバイスの可能性を信じていた頃の自分だ。

トラックをやれば速くなれる気がした。

距離を踏めば変われる気がした。

ウルトラを走れば何か見つかる気がした。

100kmも何度か走った。
六回だったか七回だったか。

そのうち飽きた。

それでも当時は、どこかに今の自分より優れた自分が隠れている気がしていた。

今思えば、あれは競技というより希望だったのかもしれない。
四十歳になると、その希望は少しずつ経験に置き換わる。
それは悪いことではない。

むしろ楽になった部分も多い。

この機械がどのくらい走り、どのくらい壊れ、どのくらい回復するのかが大体分かるようになった。

だから最近はデバイスそのものよりも、このデバイスの上でどんなOSを動かして遊ぶかの方に興味がある。

今日の練習会はそんな日だった。

日曜日なのでいつもの大濠公園へ向かう。
メニューは16kmのビルドアップ。

この練習会はLINEグループだけで300人近くいる。
少し人数が多すぎる気もするが、同じ練習内容をできる相手が何人もいて、朝6時開始という家族への説明のしやすさもあり、便利に利用している。

今日は関西からランニング系ユーチューバーが来ているらしかった。ランラボというらしい。
私は知らなかった。

私のYouTubeは古典文学の解説動画か長期投資の話ばかりである。

音楽ならクラシックかトドリック・ホールみたいなゲイR&B、あるいはジャスミンビーンみたいな若い女の子が歌う少し陰気なグランジロックだ。

だからランニングユーチューバーという文化圏にはあまり縁がない。

練習中、Kくんと話した。
三十歳を少し過ぎたくらい。

先週3000mを8分40秒台で走ったという。
「じゃあトラックを伸ばすのか?」
と聞くと、今度は霧島のトレイルレースに出るらしい。
その瞬間、少し昔の自分を思い出した。
あの頃は何でも試したかった。

マラソンもやる。

ウルトラもやる。

もっと距離を踏めば何か見つかる気がした。
Kくんもたぶん似たような場所にいるのだろう。
私はもうその探検を終えた。

終えたというより、だいたい地図が描けてしまった。
だから羨ましくはない。

ただ少し懐かしい。

その後、今日のゲストだったランラボの副社長という人とも話した。

彼も三十代前半だった。
どうやら私のことを知っているらしい。

前回の別府大分毎日マラソンでスペシャルドリンクを渡したと言う。

しかし私はそんなことを覚えていなかった。
というより思い出してみると、そのコーラはたぶん私のものではない。

私より前のゼッケンの人のスペシャルを間違えて取ってしまい、悪いと思いながら飲んだあのコーラである。
事情を説明すると、
「じゃあ私は共犯者ですね」
と言って笑っていた。

感じの良い青年だった。
正直に言うと私はランニングユーチューバーという文化をあまり信用していない。

ランニングは結局、積み上げるしかない競技だからだ。
近道も裏技もほとんどない。

今日走る。

明日も走る。

それを何年も続ける。

たぶんそれだけである。

だから私は「これだけで速くなる」とか「知らないと損する」みたいな言葉を見ると少し白けてしまう。

ファッションとしてランニングを始め、その周辺で小銭を稼ぐ人たちもいる。

もちろんそれが悪いとは思わない。

ただ私には少し違うゲームをやっているように見える。
だから今日のゲストにも特に興味はなかった。

だが彼は爽やかな青年だった。

人間は会ってみないと分からない。

練習は3分45秒ペースから始まった。

私には少し退屈だった。
残り4km。

ふと別大の終盤を思い出した。
「この前の続きやろう」

そう言って飛び出した。

3分10秒くらいまで上げる。

誰も来ない。

まあそうだろうと思った。

一人で行くかと胸を叩いてさらに前へ出る。

すると後ろから足音がした。

ついてきたのはランラボの彼だった。

そこから1kmほど並走した。

彼はそこで離れた。

私も少し熱くなり過ぎていたらしく、それ以上は上げられなかった。

若い頃なら違っただろうか。

いや、たぶん違わない。

昔の私は今思っているほど強くはなかった気がする。

ただ、自分にはまだ何かあると信じていただけだ。

昼からは家族で海の中道へ行った。

子供たちを追いかけ回し、遊具で遊ばせ、喉が渇いたので売店でコーラを買った。

若い頃の自分にも会った気がした。
戻りたいとは思わない。

今の方が気楽で、今の方が面白い。

ただ、ときどき昔の自分が向こうから歩いてくる日がある。
今日はそんな日だった。

海の中道で飲んだコーラは妙に美味かった。
きっと熱かったからに違いない。

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